こんにちわ。ソーシャルビジネスを日本に広めたい南(@minami_shiroInc)です。
SDGsに関する取り組みを始めようとする際に「どのSDGsに対して何をする?」のディスカッションがよく行われる。しかし、いきなり具体的なアクションを考える前に、しなければならないことがある。
それが、SDGsを経営に統合させる、SDGs達成に向けた取り組みを行う先にある「ビジョン」を創ることだ。
なぜSDGsを経営に統合させるため、SDGs達成に向けた取り組みを行う先にあるビジョンを創る必要があるかを、私がお会いした企業の話もしつつ、解説していく。
目次
SDGsを経営に統合する変革を起こすために最も重要なビジョンメイキング
SDGsを経営に統合するための変革を起こすための第一歩であり、最も重要なことが自社の理念に紐づいた「ビジョン」だ。
SDGs、ESGが浸透し始めた今だからこそ、理念はかえず、社会価値・経済価値を同時に実現していくためのビジョンが必要であり、欠かせないものになった。
どうしてSDGs経営を実施していく上でビジョンが最も重要かを述べていく。
たどり着くゴールがないと道をつくれない
経営者の方であれば、「今更ビジョンが何だ!」と思われる人もいるだろう。
しかし、自社利益のみならず、SDGsに代表されるような社会問題を事業で解決しようとしている企業の価値が高まる時代において、新たなビジョンが必要である。
経済価値としての財務目標だけではなく、社会価値の創出も目指していくための羅針盤となるのがビジョンだ。
熱狂的であり、人の心に染み渡るようなビジョンがあることで、SDGs経営戦略や目標に落とし込める。
改めて、自社視点のみならず、外部ステークホルダーや社会全体の動向を含めた視点から「私(自社)が存在する意義は何か」の問いに真正面から向き合ってほしい。
CEOに伝えたい事、
CEOは『ビジョン』をバンバンに売ってください。 これほど費用対効果がある価値はありません。
「物」を売った時点で、「物売り」の会社になります
— チカイケ秀夫@原体験ドリブンな人 (@chikagoo) April 27, 2020
企業のCBO(最高ブランンディング責任者として複数社にジョインし、思いを持つ人をブランディングで支援をしているチカイケさんも言うように、最高経営責任者、あるいは経営層の人が社内外に「ビジョン」を売っていく必要があると私も考えている。
ビジョンを売っていこう。
幹部や社員がエンゲージメントしない
SDGs経営に取り組む上で「社内にSDGsが浸透していない」が課題である企業がいる。
先進的にSDGs経営を実践している企業が会員となっているグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の調査(*1)では、SDGsに取り組む場合に社内の理解度が低いと回答した企業が66%いた。
どうして社内にSDGsの理解度が浸透しないのか。目の前の業務におわれてそれどころじゃない、そもそも興味がないなどの要因もあるだろう。
しかし、私が企業様にお会いする中で痛感したことは、経営層からただ「自社もSDGsに取り組んでいくぞ!」と全社会議で伝えるのみになっていることだ。ビジョンに惹かれてジョインしたメンバーもいるだろう。人の行動を変えるためには、ビジョンが必要なのだ。
もちろんビジョンのみならず、人事制度や戦略目標なども必要。しかし、変革するためには人の心を動かす力があるビジョンをつくることが欠かせない。
採用難に陥る
私自身、会社員時代は「企業が何をしているか」よりも、「企業がなぜその事業をしているか、どのような社会問題を解決しようとしているか」を選ぶ際に重要視していた。つまり、ビジョンが何かをじっくり社員や経営層の方に聞いて、応募する企業を選定していた。
私もミレニアル世代と呼ばれる世代に含まれるが、デロイトグローバルが実施しているミレニアル世代を対象とした調査(*2)では、10人中9人(86%)が企業の成功は単に経済的成功だけで測られるべきではないと考えていることが分かった。
また同社の2018年に実施した調査(*3)では、ミレニアル世代は企業が重要視している「収益の創出」や「効率性の追求」ではなく、「地域社会の改善」「環境の改善と保護」サスティナブルな要素を企業が達成すべきことと考えていると分かった。

(出所:2018年デロイトミレニアル世代年次調査よりshiro作成)
これらの事実は、中長期的に優秀な人材を魅了し、市場で勝ち残っていくためには、ビジョンが必要であり、社会問題解決を推進していくことが必要であると示唆している。
消費者に見放される恐れがある
SDGs経営しているかどうかが消費者にも影響する時代になりつつある。
一般財団法人経済広報センターの調査(*4)によると、約9割の人が「SDGsに取り組んでいる日本企業の製品・サービス」を利用したいと回答している。

経済広報センターの調査(*5)や損害保険ジャパン日本興亜株式会社の調査(*6)でも同様の結果である。
「SDGs経営していなければ、誰にも商品やサービスを購入してもらえない」と極論を言いたい訳ではない。
しかし、2030年までにSDGs経営するプレイヤーが増え、ホームページ,Webメディア,TV,商品陳列棚などあらゆるチャネルで各社経済価値だけではなく、社会価値の創出も目指すビジョンをストーリーで消費者に伝えていくだろう。そうなった際に、サービスの提供価値が競合企業と同様の場合、どちらのサービスが売れるだろうか?
私含めて、後者を選ぶ人が多くなるのではないだろうか。
サイモンシネックのゴールデンサークル理論がステークホルダーに及ぼす影響
サイモン・シネック氏が2009年にTEDでシンプルで強力なモデルを使って周りを動かすリーダーシップについて説明している。シンプルで強力なモデルが「ゴールデンサークル」と呼ばれるもの。
サイモン・シネック氏はアップル社の事例を踏まえて、以下の図のように商品やサービスを紹介すると人がより買いたくなると提唱している。

逆に多くの企業は「What→How」の順に話しており、よくある広告で買いたいと思ってもらえにくいのではないかと主張している。
あらゆる業界でコモディティ化が進んでいる中、共感してもらえ、相手の心に染みわたるようなブランドのストーリーテリングが重要だといわれる時代だからこそ、ゴールデンサークルが重要ではないかと私も考えている。
ゴールデンサークルのWhyがないと、なぜSDGsを経営に統合する変革が必要なのか、本当に変革すべきなのか、変革しないリスクが何で変革した際の恩恵が何かという認識がズレていき、変革に失敗する恐れがある。
コンサルティング会社であるアーサー・D・リトル(ADL)は、経営変革に失敗する理由として、「5つの壁」があると主張している。

変革に失敗する最初の壁が「認識」であることが、ここまで述べてきた内容に通ずるものがある。
「SDGsを変革する=What」「◯◯をしてSDGsビジネスするぞ=How」だけでなく、「◯◯な世界を目指し、□□のリスクを回避しつつ△△のチャンスを掴み、自社・社会・環境にとって価値あるビジネスをして成長していくぞ!」などのようにWhy(ビジョン)を重要視していくとよいだろう。
優れたビジョンの特徴
私が経営戦略を考える際に重宝している沼上幹さんの『経営戦略の思考法』には、ビジョンについて以下のように書かれている(*7)。
どれほど美しい言葉を並べて語られたビジョンでも、そこに至る道筋が見えない絵空事では、単なる言葉遊びにすぎない、という点にも注意する必要がある。
私はこの一文がビジョンメイキングする上で、重要な要素を含んでいると考えている。
「世界を良くする」「社会を発展させる」といった抽象度が高いものでは、その企業でなければならない理由がなく、どのような行動によってビジョンを実現させるかが分かりにくいケースがある。この一文から、その企業だからこそ目指す意義があり、かつ具体的なメッセージがあるようなビジョンをメイキングすることが重要ではないかと考えている。
ビジネスイノベーションハブ株式会社代表取締役の白井和康氏は優れたビジョンには3つの要素があると主張している(*8)。

経営者のイデオロギーが反映されており、長期的な未来のイメージが具体的に明確になっており、かつ大胆な到達地点であるかどうかが優れたビジョンかどうかの違いだ。
SDGs経営/ビジネスに関するビジョンのため、ビジネスとサステナビリティのバランスを保ちつつ、この3つの要素を含めたビジョンをメイキングしていこう。
ビジョンを明確にすることがはじまり
経営者の方であれば、ビジョンを創ることがどれほど難しいことか味わったことがあるのではないだろうか。
私自身も、自身の価値観や原体験をベースとしたビジョンを創ってもうまく周りの人に伝わらなかったり、人の心に染み渡らなかったりと悪戦苦闘している日々だ。
しかし、SDGsを経営に統合し、社会問題をビジネスで解決していくためには、社内外含めてコミットメントする人が複数必要。ステークホルダーを巻き込み、伴に事業活動していくためには、やはりビジョンが欠かせない。
SDGsを経営に統合する第一歩はビジョンを明確にすることだ。
私自身も日々試行錯誤していく。ぜひあなたも最初に自社がSDGsに取り組む上でのビジョンを創ってみてほしい。
【引用・参考】
*1:GCNJ,IGES.未来につなげるSDGsとビジネス~日本における企業の取組み現場から~,6.
*2:デロイトトーマツグループ.2017年デロイトミレニアル次調査 不安を感じるミレニアル世代:不確実な世界で安全と機会を求めて,11.
*3:デロイトトーマツグループ.2018年デロイトミレニアル年次調査 ミレニアル世代は企業に失望し、インダストリー4.0への備えができていないと感じている,7.
*4:一般財団法人 経済広報センター.SDGsに関する意識調査 結果報告(2019).
*5:一般財団法人経済広報センター(2019).SDGsに関する意識調査 結果報告.
*6:損害保険ジャパン日本興亜株式会社(2019).社会的課題・SDGsに関する意識調査~さらなる浸透に向けて、企業に求められるものとは~
*7:沼上幹(2010).経営戦略の思考法,179.
*8:白井和康.「ビジョン」は未来の姿、「ミッション」はビジョンの現実を支える行動軸―成長企業が大事にすること,BusinessBookAcademiyレポート.